三毛猫レクイエム。
第九章

奪われた、勇気

 ヒロと私が親密になっているという記事が出てから、少し周りが騒がしくなった。
 ネットに精通している友達が、私とヒロのことがネットでも話題になっていると教えてくれた。
 TAKIへの裏切り。それは私のあきへの裏切りと、HIROのTAKIへの裏切りの、二つの意味を含んでいる。
 このことが記事になってから、ヒロへの批判もさることながら、私への批判の方が大きいと、その友達は教えてくれた。



「姫木ちゃん、大丈夫?」

 仕事場で暗い顔をしていた私に、山里先輩が声をかけた。

「大丈夫です。ごめんなさい、心配かけて」
「姫木ちゃん、あんな週刊誌なんて、気にしなくてもいいんだよ」

 本当に心配そうに声をかけてくれる先輩に恵まれて、私は幸せだと思う。

 そこに、若い女性の二人組が入ってきた。携帯を眺めながら、談笑をしている。どうやら、機種変更のようだ。
 担当の人のところにはまだお客さんがいる。二人は備え付けの椅子に座って、週刊誌を読み始めた。

「あ、これ、知ってる?」
「うん?」

 小さなショップだ。二人の話し声が嫌でも耳に入る。

「これさ、最低だよね、女が」
「ああ、TAKIの?」

 ずきんと、心が痛んだ。
 どうやら彼女達は、あきのファンだったらしい。

「TAKIってさ、ずっと彼女への歌とか、公言しててさ、それがすっごい格好良くて、彼女が羨ましいと思ってたのに」
「あんな男に愛されるなんて、幸せだもんね」

 そうだよ。
 あきに愛されるのは、あきを愛するのは、幸せだった。

「なのにさ、TAKIが死んで、他の男ととか、まじ最低」
「しかもHIROでしょう? 同じバンドの」

 たとえ幸せでも、あきはもう、この世にはいないんだよ。

「まじでTAKIへの裏切りだよね」

 ねえ、教えてよ。
 私にどうしろって言うの?


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