泡沫眼角-ウタカタメカド-

2人目

* * *

演説が始まった。

【特に動きはありませんね】

スクエアビルの8階にあるレストランで、二人は通りを見下ろしていた。

「何も起こらないのが一番なんだけどね」


何か起きるのを期待しているような、けれども緊張しているような声で高橋は言った。

そうそうあるわけではない大がかりな張り込みに、普段より力が入っているようだ。


【あの、どの人の後ろにどのような方々の支援が入っているのですか?】

「そうだね…、今から演説を始める田中邦洋(タナカ クニヒロ)には、比津次会、黒井三郎(クロイ サブロウ)には政治家の綾門杉夫(アヤジョウ スギオ)。さっきから煩く宣伝の車が走ってるやつ。
で、今日ここに来ていない坂本彰(サカモト アキラ)のバックが禅在組さ」


と、トレードマークのメモ帳も見ずにすらすらと答えた。


――よく覚えていらっしゃいます。


しょっちゅうメモ帳を開く高橋がこうも空で言うので、言乃は目をぱちくりとしてしまう。


――いや、そもそも覚えてないからメモ帳を使うのではないのかもしれませんし…

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