悪魔のようなアナタ【完】
それは灯里も同感だ。
あの吹奏楽部の練習で会って以来、まさかここで玲士と再会するとは思ってもみなかった。
玲士も入社式の日、灯里を見た瞬間驚いたように目を丸くした。
『あれ? ……お前、あの時の……』
『……まさか、水澤くん?』
『あの時の単細胞生物? ……このご時世だし絶滅したかと思ったけど、しぶとく生き残ってたみたいだね』
くすりと笑った玲士を灯里は思わずまじまじと見てしまった。
――――久しぶりの再会でも相変わらずの毒舌、しかもいきなり『お前』扱い。
この日、灯里が激しく落ち込んだのは言うまでもない。
そして玲士の態度は入社以来ずっと変わらず、灯里は事あるごとに虐げられている。
内心でため息をついた灯里に気付くことなく美奈は目を輝かせて続ける。
「水澤先輩って社内でも人気ですよねー。知ってます? ファンクラブ」
「……それってホントに実在するんだ?」
「もちろんですよー。今のところ5名ですけどね。先輩も入ります?」
「イヤ、けっこう。アンチの会なら入るけど」
「え?」
「イヤイヤ何でもないよ」
灯里は慌ててあははと苦笑いした。
こんなに可愛い子があいつの毒気にやられてるのかと思うとなんだか忍びない。
美奈の目が怪訝そうに灯里を見る。
灯里は『先に行くね』と言いながら立ち上がり、コーヒーの缶を捨てて休憩室を後にした。