一億よりも、一秒よりも。
那由多。
「菜の花の香りってさ、エロティックだよね」

私の上で、男は呑気にそんなことを口にした。花瓶に活けられた、菜の花を眺めながら。

私はなんと答えただろう。たぶん「くだらない」とか「興味ない」とかそんなこと。
そうやって私たちは気持ちいいように動いて、併せたわけでもないのに同時に果てた。

 
どんな男とセックスしようが満足する身体に生まれてきたら楽だったのに、といつも思う。

思うということは残念ながらそうではなくて、すごく好みだったのに寝たら外れということも幾度か経験してきたということだ。
そういう恋は往々にして終わりが早い。

 
そしてその逆もありえる。好きでもないけれど、身体の相性はいい奴。そういう奴と巡り合ってしまうとタチが悪い。

いやけして、今目の前にいる男がそうだと言いたいわけではない。かろうじて、たぶん。
 
< 1 / 84 >

この作品をシェア

pagetop