一億よりも、一秒よりも。
目当ての香水以外に目もくれることなく、彼女――キョウは百貨店の出口へと向かった。
排ガスの匂いに充満した外はもう暗い。でも暗いのは空だけで、地上は様々な灯りに照らされていた。
キョウのピアスが、ヘッドライトに反射した。


「ねえ、ナユタはどっちが好き?」
 
珍しく引きずった会話に、頬が緩む。
「俺はキョウならどっちでも」その答えは、呆れたような瞳に一蹴された。
そして雑踏の中に溶けてゆく。

 
俺とキョウは恋人という関係だ、たぶん。
そもそも彼女が俺のことをそういう相手だと思ってみてくれているならば、だけれども。
 
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