抹茶な風に誘われて。~番外編集~

Ep.3 抹茶なチョコの隠し味(かをる編)

 ピンクや黄色でアイシングして、アラザンをのせて、チョコペンで可愛くデコレーション。ハートや星の形で作ったチョコクッキーはお友達に。

 紅茶やコーヒーのお供にできて、忙しい二人のために少し日持ちのする甘いお菓子。お家でじっくり焼いたチョコブラウニーは葉子さんとおじさんに。

 溶けずに手にも付かない、朝食やおやつにも食べられるメニュー。しっとりチョコチップマフィンは施設の皆さんと子供たちに。

 お菓子作りの本をあれこれ並べて、ああでもないこうでもないとこうやって考えて、心を込めて作ったお菓子をラッピングして――受け取った人の笑顔を思い浮かべながら、手渡したり、送ったりする。

 毎年の楽しみに加えて、もう一つ最後まで悩んだ贈り物が今年はある。そう、初めてできた恋人に贈る、バレンタインのチョコレート。

「はあ……何にしようかなあ」

 思わずもれた呟きは、ホースから勢いよく流れ出る水の音に紛れたと思いきや、きっちり少し離れたところにいた葉子さんに届いたようだった。

「あら、かをるちゃんまだ決めてなかったの? 一条さんの分」

 店の外に出した鉢植えたちをぼんやり眺めていた目線をあげると、自転車を停めて戻ってきた私の母親代わり――ここ、フラワー藤田の奥さんが意外そうに言った。そのまま丸いメガネの奥の瞳を細めて、にんまりと笑う。

「もう他の人の分は全部作ったんでしょう? あたしたちのも――しっかり味見させてもらったし」

「そうなんですけど……静さんは特別、っていうか」

 考えていたことをそのまま答えたら、葉子さんはたちまち唇をとがらせて、頬を膨らませる。子供みたいな表情は微笑ましかったけれど、誤解されたことに気づいてあわてて手を振った。

「ちっ、違いますよ! あの、そういう意味じゃなくて――」

「そうよねえ。そりゃあ特別よねえ。いいのいいの、わかってるわよ。大好きな彼にあげるチョコってのは一番悩むわよねえ~」

 いじけたように語尾を伸ばして続けた葉子さんは、私が本当に困ってることを知っていてやっているのだ。だから、余計にどうしたらいいかわからなくて、頬まで赤くなってしまう。

「そういう特別もないとはいいませんけど……静さんの場合、そうじゃなくて――」

「わかってる。甘い和菓子は好きでも、洋菓子は苦手なのよね。夏、彼のお誕生日の時にあげたケーキのこと、ちゃーんと覚えてるわよっ」

 ぷっと吹き出して、私の肩を軽く叩きながら先回りして言ってくれる。葉子さんの優しさにほっとして、私は頷いた。
< 30 / 71 >

この作品をシェア

pagetop