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 また、同じ夢だ。

 濃く立ちこめた夏の白い靄の中、十歳の俺が姉の七海を捜している。
 触れたら切れそうなほどの静寂。
 あたりにはなにもない。

 俺の心臓の音だけがドクンドクンと大きく耳に響く。
 不安に汗ばむ手のひら。

 目の前に父さんの車がぼうっと浮かび上がる。
 鈍い銀色の車体。

 トランクからはみ出た白い布を見た途端、恐怖で身体が凍り付く。

 ここにあるものを、俺は知っている。
 その先に何が起こるかも。

 ――助けられないお前はダレモタスケラレナイ――

 必死に鍵を開けようとする俺の後ろで、誰かがそう言って低く笑う。
 ぽっかり口を開けたトランクの中に広がる、黒々とした深い闇。

 七海……!

 俺は声にならない悲鳴を上げた。






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