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「本当に、あの子と面識はない?」

 エアコンが気持ちよく効いた病院の広い面会室で、俺に冷えたコーラの缶を手渡しながら瑛里子さんが聞いた。
 県立西病院の六階、特別病棟。
 あの子は、この階の病室に眠っている。
 瑛里子さんは、子どもや女性が絡んだ事件が起こると必ず被害者に付き添うのだ。
 性犯罪の被害者にも、必ず。

 おっさんは今、西署で事情聴取を受けているらしい。
 自分の車のトランクから被害者が見つかったのだから仕方がないが、それにしても嫌な展開になったものだ。
 おっさんの疑いはすぐに晴れるだろうが、この事件の捜査に関わることが出来るのかは微妙だった。
 きっと今ごろ、業を煮やして怒鳴りまくっていることだろう。

 ようやく穏やかになった日差しが、南向きの大きな窓から差し込んでいる。
 窓の外に見える夕方の駐車場には、もうほとんど車は駐まっていない。
シンプルな白いシャツと、グレーのスカートという服装の瑛里子さんが、テーブルを挟んで俺の前に座った。
面会室の向こう端には、入院患者とその家族が一組、穏やかに話をしているのが見える。
クッションのきいた椅子やテーブルは、落ち着きのある柔らかなベージュと白で統一されていた。
広くあいた入り口の向こうを、時折ピンクのガウンの患者や、ステンレスのカートを押した看護師が静かに通っていく。

 ここは五年ほど前、街中から郊外に移転して、新しく建て替えられた総合病院だ。
広い敷地に緑の芝生、さわやかに葉を広げる木々を配していて、明るく清潔な印象がある。
それほど距離があるわけではないのに、ごみごみした明神通りや、俺の住むアパートがある一角とは、空気の匂いからして違う。
回りには、立派な家を構えた広い新興住宅地があるが、俺には一生縁のない場所だろう。
腐った場所をどうにかするより、手つかずの新しい区画を上品に整理していく方が得策に決まっている。

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