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「健造おじちゃんが来たら、見せてあげるの」

 三日前に十二歳の誕生日を迎えたばかりの七海が、はしゃいで言った。
 お袋に買ってもらった袖のない白いワンピースと、ほんの少しだけヒールのある、今までよりも少し背伸びした形のサンダル。
 ワンピースは襟元と裾に透かしの織り模様が入っていて、同じ白のサンダルは華奢な革ひもがビー玉のような透明の飾りで留められているものだ。
 透き通った桜桃のようなガラス玉が、夏の日差しを受けてきらきらと輝いていた。
 それが眩しくて、何度も瞬きして姉を見たことを覚えている。

 住居を兼用している店の裏口の道で、俺は口をとがらせて姉を見た。

「そんな格好じゃあ、ザリガニ釣り、できないじゃん」

 同級生の男子も一目置くほど活発な七海と一つ違いの俺は、いつも連れだって遊んでいた。
 サッカーや、自転車、家の裏と明神町の間に流れる細い川に伝い下りてザリガニ吊りをすることもある。
 古い街並みだった頃は、どぶ川にも、まだ細々と生物は残っていたのだ。

 その日の七海は、ポニーテールが定番だった髪を長く下ろしていた。
 川辺の低いコンクリート塀に取りすまして座り、嬉しさを隠せない様子でサンダルを履いた素足を揺らしている。
 お袋の化粧水でもこっそりつけたのか、ほっそりとした少女らしい身体からはふわりと花の匂いがした。

「早く着替えてこいよ。そんな服」

 俺は、道端の小石を蹴り飛ばしながら不機嫌に言った。
 七海は俺にとって、姉というより最高の遊び友達だった。
 普段は短パンにTシャツの姉が急に女の子になってしまったのが気に入らなかったのはそのせいだ。

「あたし、もう大人だからザリガニ釣りなんてしないの。小学生となんか遊べないよ。昂とは二歳も違うし」

「二歳違いになるのは、たった一ヶ月の間じゃん!」

 俺が口をとがらすと、七海がくすっと笑った。

「昂と違うのは歳だけじゃないもん」

 七海のふくらみかけた胸を、俺たちは同時に意識した。
 まだ堅いつぼみのような丸い胸。
 俺は風呂上がりの七海を時々ちらりと見ていて、姉の身体が急に変わってきたのを知っていた。

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