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 額に冷たい汗がにじんでいるのに気づき、俺は手でそれを拭った。
 目の前にいる瑛里子さんが、言葉を無くして俺を見つめている。
 あの日のことを、ここまで誰かに話すことができたのは初めてだった。

「それから家に警察が来て、親父を連れて行ったんです。誰かが、親父が七海にいたずらをしているところを見たことがあると通報したそうです。
いたずらは日常的で、七海がそのことで思い詰めたような表情をしているのを見たことがあるとも。
その後わかったDNA鑑定で白だと出たにも関わらず、犯人が挙がらないために興味本位の世間の目は変わりませんでした。
親父への酷い中傷が続き、当然、お客は次々と店から離れていって、もともと経営の厳しかった店は、大きな借金を抱えたまま倒産。
娘をあんなに酷い事件で失った上に疑いまで掛けられた親父は日に日に憔悴していき、お袋も外に出られないほど神経が衰弱してしまいました。
家の中に会話がまったくなくなった時、喧嘩してる両親を見る方がどれ程ましかと思い知らされましたよ。
七海の葬式には、並べきれないほどの花輪が届いたんです。ずらっと、通りにはみ出すほどにね。
半年後に親父が死んだときには、数本でしかなかった。
親父は七海が見つかった車庫で首を吊りました。
学校から夕方帰った俺は、たまたま寄り道をして裏口から帰ってきたんです。
でも、お袋が見つけなくてよかったと思います。
もう、倒れて死んでしまうんじゃないかってほどやつれてましたからね。
俺は脚立を使って親父が首を吊っている縄を切りました。
いつも大きく見えていた親父が、痩せて小さくなったなとぼんやり思った記憶があります。
地面に落ちた親父に青いレジャーシートをかけて、警察に話しに行ったんです。
母さんが見る前に、父さんを木の箱に入れてくださいってね。
俺はもう、誰も失いたくなかったんです。
お袋が死んでしまったら、俺には誰も残らない」

 俺はそこまで一気に話し、それから瑛里子さんを見た。
 顔色をなくして俺を見ている瑛里子さん。
 凄惨な事件など、いくらでも知っているだろうに。
 だが、その表情がますます俺のプライドを傷つける。

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