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 濃いオレンジ色の夕日が、古びた鉄筋のアパート群を斜めから照らし出している。
 乾いた地面に、ようやく長い影が落ちだしていた。
 この季節の夕方は、どこへ行ってもツクツクボウシの鳴き声が聞こえる。

 団地のあちこちで、好き勝手に遊ぶ小さな子どもの姿が見える。
 エアコンのない狭い部屋に閉じこもっているより、風が抜ける外の方がまだ涼しいせいだ。
 物騒な世の中だというのに、見守る親の姿はほとんどない。
 夕飯の支度をしている家もあるのだろうが、夜遅くまで小さな子どもだけで留守番をしている家庭も多いのだ。

 この区域は、上品な人々があまり好まない場所だ。
 明神通りの西はずれ。
 交通の便も悪く地価は最低だから、なにかまずいことがあればすぐに撤退できる事務所を持ちたいヤツらには人気がある。

 すぐ近くに警察官の立ち寄りコースにもなっているほど荒れた中学があり、そこが俺の母校だった。
 少子化だというのに、この地域は子どもが増え続けているらしい。
 長く続いた不景気の煽りで、ここでなくては暮らせなくなったものが多くなったせいだ。

 この古い公営団地は、街中でもっとも安い価格で屋根のついた寝場所を提供してくれる、ありがたい場所だった。
 好景気の頃は空き部屋だらけだったらしいが、俺が七年前に超してきた頃には空き部屋はほとんど無くなり、今では長い順番待ちになっている。
 おっさんが住むあの部屋ですら、ここの三倍の家賃を取るのだ。
 俺とお袋は、この団地が存在しているから生きてこれた。

 ここからさらに西へ行ったところには電子部品工場と自動車工場があり、そこに勤める南米人もこの辺りには数多く暮らしている。
 日本で得た給料を出来るだけ多く仕送りしたいと願う人々だ。
 彼らが地方の工場を望むのは、都会よりも残業が多いからだとも聞く。
 だが、景気の動向ですぐに解雇できる外国人の大量採用で、地元の人間はますます働く場所を狭められていた。

 その工場自体も、昨年あたりから稼働しない日が続いていて、職を失った人々が、職業安定所に長い列を作っている。
 どこに景気回復の兆しがあるのか、少なくとも俺が見ている現実の中に出口は見えない。

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