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 目を覚ました歓楽街が、長く光る触手を闇の中へと勢いよく伸ばし始めていた。
 スイッチを入れた享楽の遊園地。
 俺の横を、とりどりの色と喧噪が通り過ぎていく。

 俺の住む区画から最初に足を踏み入れる場所にあるのは、風俗が密集した西の一角だ。
 人でにぎわう猥雑な通りからは、日中の死んだ街の姿など想像もできない。
 鮮やかに闇を焦がす原色のネオンの輝きと、アルコールの力を借りて気を大きくした男たちの下卑た笑い。

 タクシーが行き交う道ばたには何人もの呼び込みが立ち、買う側と買われる側の駆け引きが繰り広げられている。
 呼び込みが違法行為だとみんな知っている。
 だが、それを言うなら、その先にある行為はすべて違法なのだ。

 ここのところ、風俗界隈は異常なまでの繁盛をみせていた。
 緩い規制の中、もうける側とそれを楽しんできた客が、垂れ落ちる最後の蜜を舐め取ろうと必死なせいだ。
 圧倒的に優位と言われている市長候補の片岡が、乱れきった風俗街を徹底的に規制する方針を打ち出している。
 片岡が勝てば、この街は様変わりするのだろう。


 蛍光イエローとピンクの点滅ライトで縁取られた夜のバナナドリームの横から、いつもの階段を上がる。
 錆びた鉄のドアをノックすると、おっさんがすぐに顔をのぞかせた。
 日中と同じ、袖をまくった白いシャツとしょぼくれたネクタイ、灰鼠色のよれたズボンという格好だ。

「遅かったな、昂。ちょうどお前のためにきついカクテルを作ったところだ」

 狭い部屋に足を踏み入れると、おっさんがちゃぶ台に白い液体の入ったコップを二つ持ってきた。扇風機を強にして、俺にむける。

「まあ、座れ。なに強ばった顔してんだよ。せっかくの男前が台無しだぞ。ほれ、握り飯もある。お子様は水分とブドウ糖を切らしちゃだめだ。上出来な脳みそが栄養失調でポソポソのおからになっちまうからな」

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