シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

・耐性 煌Side

 煌Side
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「桜。見ないフリ、していてくれ」


そう言った時にはもう、

桜の姿は無かった。


気を利かせたんだろう。


俺は…

壁を背に凭(もた)れさせ、

人知れず泣いた。


情けねえと思うけど…

女々しいと思うけど…


――玲くんッッ!!!



櫂のキスから逃れようとした芹霞が口にしたのは玲の名。


俺じゃねえ…名前。


玲のことを心配しているというよりは…

まるでかつての櫂に向けていたような…真っ直ぐさ。


その目に映っていたのは…俺じゃねえ。


罪に穢れた身故に、見守ろうとさえしていた俺は…そんなことが到底出来ない程に、芹霞を求めていたことを改めて思い知らされて。


だからこそ――


――うあああああ!!!


暴走した時の櫂の慟哭に。

俺の心は…共鳴したんだ。


俺以外には、櫂の哀しみを苦しみを…判ってやれねえと思ったんだ。



だけど、櫂を抱きしめた時、俺の苦しみなんて薄っぺらいモノで…櫂はもっと苦しいんだって感じた。


体全体で泣き叫んでいた。


自分を壊すくらいに。



あの玲を"裏切り"とみなす程、苦しくて仕方が無いんだ。


玲がそこまで追い詰められていた状況にあったと、いつもみたいに考えられねえ程、櫂は苦しんでいるんだ。


俺は――

この涙を止めて…

櫂を支えなきゃ。



櫂が笑う為に…


そして――


玲も芹霞も笑う為に。



皆がまた前のように笑うのなら。



俺の想いは――

抑えていよう。


俺は道化になろう…


そう思ったんだ。


多分それは――

朱貴の無償の愛の貫き方に感化されたからかも知れねえけれど。


数日前から見れば、俺の意識は反転していて。


俺はそういう自己犠牲タイプではねえと思ってた。

本能のままにしか生きられねえと。


だけど――

出来ねえのではなく、やらなきゃいけねえんだ。


俺の大事なモノを守る為には。

皆の心を守る為には。



だから…今だけ。



今だけ――

俺の心のままに…


泣かして貰いたいんだ。



「芹霞…。

お前が好きだよ…。


お前の心が…欲しい…」



俺の手は…空を掴んで。



「芹霞……」


何度も呼んだ。


愛しい…女の名前を。



何度も、何度も…。


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