シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

・別離

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屋敷の窓硝子が割れた音がした瞬間、

舌打ちした久遠が屋敷に戻ろうとした。


――逃げるか、久遠。


久涅の問いに、久遠は面倒臭そうに答えた。


――オレは、悪童2人の保護責任がある。いつもの如き派手な喧嘩ならば、屋敷の存続は危うい。保護者らしく仕置きをして、被害を食い止めたいとしているのだが…それは外界では"逃げ"になるのか。


旭くんと司狼…喧嘩してるの?

だけど…何か違うような気もしたことは、黙っていた。


――随分と余裕だな、久遠。お前の返答を聞いていない。

――だったら、10分待て。10分後にまた出てくる。

――出てこなかったら?


――お得意の…"約束の地(カナン)"滅亡とやらをすればいいだろう。オレは逃げも隠れもしない。


――ならば、10分待ってやろう。10分後…お前の返答を聞くぞ。

――………。ああ…。


そうして屋敷に慌ただしく入っていった久遠。


そしてあたしの横には――

固まったままの玲くん。


玲くんが動かない。

口をポカンと開けたまま、片膝をついた格好で固まっている。


鳶色の瞳の焦点は合っていない。

何処を見ているのかよく判らない。


声をかけても揺さぶっても、目の前で手をぱたぱたさせても反応がないんだ。


「玲様、大丈夫ですか!!?」


桜ちゃんも控え目に揺すぶるけれど、やはり玲くんからの応答はない。

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