シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

・蠢動 櫂Side

 櫂Side
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俺達は大勢のカメラマンを従えて、煉瓦調タイルの道を歩く。


まるで大名行列だ。


何事かと、道を譲って小脇に移動するのは、殆どがカップル。


俺達に奇異なる眼差しを向け、


「あれ、可愛い!!」


何故か"可愛い"と形容されるクラウン王子。


しかし女限定。


カクカク歩きの王子も、動くことに余裕が出てきたのか…賞賛の声が聞こえると立ち止ってそちらに向いて手を振っているが、どうも…顔が顔だけに、"どや顔"で相手を威嚇しているようにしか見えない。


更には追いかけてきた小さな女の子が、


「サインして下さい~」


ペンと色紙を手渡せば、


『おい、お前字かけるか?』

『んー、旭頑張る~』

『"クラウン王子"。

格好よく漢字も入れろよ? 漢字は2個あるからな、1個でやめるなよ?』

『判った~。格好いい漢字頑張る~』


ひそひそ声。


大きな作り物の手が、やけに小さく見えるペンをもどかし気に動かす。


遠目でそれを見守る俺。


そして色紙一杯に書かれた――


"食らうンおー痔"


「ありがとう~」


満面の笑みで女の子は去る。


『お前やるな』

『きゃははは~やるやる~』


何で…いや、何も…思うまい。

沢山突っ込みたい部分はあるが、考えるまい。


少女は幸せになったんだ。

それでいい。



あんな変なキャラクターでも微笑ましいじゃないか。



「お前、馬鹿?」



突き刺さるような紅紫色の瞳。


上から目線の高飛車男。


「一人立ち止まってにやけて…気持ち悪い」


それだけを言い捨てると、毛皮を風にふさふさと揺らして、皆の元に行ってしまう。


………。


待ってくれてた…そう思おう。


俺はこの所苛ついて怒ってばかりだから…このままでは私情に囚われて、微細な"変化"を気づく事が出来なくなってしまうから。


平常心、平常心…。


――お前、馬鹿?


……時々怒り。


俺は――

大股でずんずんと歩き、一向に追いついた。

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