シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

・衝動 櫂Side

 櫂Side
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何で…こんな処に

こいつが現われた?



「妙な処で、

妙なものに出会う…」



変わり果てた姿の榊との会話に、割って入ったのは…俺の義兄。


忽然と姿を消した直後、"約束の地(カナン)"に災厄が降り注いだ。


此の地の惨状を引きおこした張本人。


何事も無かったかのような顔をして、のうのうと俺の前に現われるとは。



くつくつ、くつくつ。


下卑た笑い声を響かせながら、コートのヒョウ柄が示すが如く…肉食獣の眼差しを向けてくる。


「今――、

2人分のおかしな声が聞こえた気がしたが、どう見てもおかしいよな…?」


ゆっくり向けられる、射竦められるような黒い瞳。


「お前は、喋れないはずで…しかも女、なんだろう?」


俺は――

ごくんと唾を飲み込んだ。


居るとは思わなかったから、出るようになった声で会話していたのを聞かれてしまったか。


久涅の気配を悟れなかったのが不味かった。


一瞬――

正体をばらそうかとも思った。


手首の布が熱く俺に絡みついて。


芹霞が此の地に来ているのなら、俺はとことん紫堂櫂で居たい。


女としての姿ではなく…

1人の男として、芹霞に会いたい。



――紫堂櫂を愛してる!!


俺は…男だ。

芹霞の"女"を求めている、ただの"男"だ。


此処からでも叫んで、一刻も早く芹霞の元に駆け付けたい衝動を抑えている。


俺も芹霞が好きだと。


愛していると。


ようやく実ったこの恋。

ようやく手に入れた芹霞の心。


鳥肌が立つ程待ち焦がれていた瞬間を、今度こそこの手に入れる為なら。


我が身可愛さに、"男"を忍んでいることはない。



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