ルージュはキスのあとで

「損は絶対にしないと思うな、僕は」

「進くん」

「それにね、真美さん。京は、真美さんを見て何かを感じとったんじゃないかな？」

「え？」



　どういう意味なのかと思い、顔をあげるとそこには進くんのキラキラスマイルがあった。



「このあたりは京に直接聞いてみたらいいと思うよ？　表舞台にはなるべく立たないようにしている京が、引き受けたんだから。真美さんを見て、何かを感じたんじゃないかな？」

「でも……それは皆藤さんに頼まれたからじゃないかと」

「もちろん、それもあるだろうけど。でもね、あの京だからね。皆藤さんになにか弱みを握られていたとしても、できないと思った仕事はぶった切るやつだからさ」

「……」

「僕は京じゃないから、本当の京の気持ちまではわからないけどね」

「……はい」



　ゆっくりと頷く私に、進くんはフフッと軽やかに笑った。



「僕はね、真美さん。今回の体験モデル、君にとってもプラスになるような気がするんだよ」

「それは……今の私はメイクも人並みにできないんですから。プロの長谷部さんに教えてもらえればマシにはなるとは思いますけど」

「そうじゃなくて……もちろん京に色々教わればいい。それもプラスになると思う。だけど、メイクのことだけじゃなくて……もっと大きな意味でのプラスになる気がするな」



　進くんの言っている意味がよくわからず首を傾げていると、進くんはクスクスと笑う。

　その笑みは、やっぱり王子様といわれるだけあって、爽やかでキュートだ。


「とにかく、明日。京に一度聞いてみるといいよ。それを聞いてから考え直したって遅くはないと思うな」

「……はい」

「京には、もう少し愛想よくするように伝えておくから。安心して明日おいで……ね？　真美さん」

「は、はい」



　バチッとウィンクをする進くんを見て、私は苦笑いで答えた。