愛を教えて ―背徳の秘書―
(1)雨に濡れた罪
初めてセックスしたのは中学三年のとき。

相手は隣の家に住むひと回り年上の主婦だった。新婚の割に彼女の夫は四十を超えており、新妻は夜の生活に満足してなかったらしい。

彼女が夫の転勤で引っ越すまで、丸二年近く美味しい思いをさせてもらった。
 

(……男に慣れたいい身体だったな。顔は……ダメだ、思い出せん)


宗はベッドから身体を起こし、サイドテーブルに置かれた煙草に手を伸ばした。

セブンスター党だった彼は、最近発売されたブラック・インパクトに切り替えたばかりだ。だが、また値上がりだと聞く。そろそろ禁煙の機会かもしれない。そんなことを考えながらライターで火を点けた。

暗がりに赤い点が浮かび、ゆらゆらと白い煙が燻(くゆ)る。

淡い水色のカーテンの向こうは土砂降りの雨だ。コーポの廂を叩く雨音がドンドン激しくなる。車まで行くだけで、ずぶ濡れになりそうだ。 

そんな心配をしつつ、宗が床に足を下ろしたときだった。


「ねぇ泊まって行けば?」


ベッドの中から縋るような女の声が聞こえる。


「何言ってんだよ」


そう答えた彼の声は、信じがたいほど冷たく響いた。


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