愛を教えて ―背徳の秘書―
その言葉に卓巳は些かショックを受ける。年寄り臭いと言われた気分だ。


だが直後、社長椅子に座ったまま黙り込む卓巳の背後から、万里子の腕が首に巻きついた。

卓巳の鼻腔に清潔なシャンプーの香りが広がる。万里子は香水をつけない。肌からはハーブ石鹸の爽やかな匂いがした。

妊娠発覚以降、ずっと我慢の日々を過ごす卓巳だ。安定期に入れば大丈夫だと聞き、心待ちにしている。


「宗さんはとってもわかりやすい人でしょう? でも、全部が本当じゃないのよね。雪音さんもそうだから、とっても大変かもしれないけど……。恋って、時も場所も相手も選べないから」


万里子の手に自分の手の平を重ねながら卓巳は聞いた。


「もし選べたら、僕のことは選ばなかっただろうな」

「いやだ、卓巳さん。何度生まれ変わっても、わたしが選ぶのは卓巳さんだけよ」


卓巳は重ねた手を掴み、万里子を膝の上に抱き寄せ……。


十分後、社長決済の書類を持って来た営業部長はとんでもないシーンに遭遇した。

彼を通じてその日のうちに、社長夫妻の仲睦まじさが本社中に知れ渡ったのである。


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