宗は彼女の返事を待たず、ネクタイを締め上着を羽織る。そして、無理やり渡された合鍵を食卓テーブルの上に置き、そのまま玄関から出た。

心なしか、雨足が強まった気がする。日頃の行いが悪いせいだろうか。そう思わずにいられない。

意を決して、コーポの階段を駆け下り一気に車まで走った。案の定、ほんの二十メートル足らずでずぶ濡れだ。


(香織のことがあいつにばれたら)


「……まずいよなぁ」


彼自身、女性との交際で嘘をついたことは一度もない。

まず最初に、結婚する気はないことを伝える。『好きだよ』『愛してる』『君だけだ』と言った台詞も使わない。自分のマンションには絶対に入れないし、合鍵も渡さない。

それを守ってここまでやって来たのだ。

この香織にしても、交際中一度も家に呼んではいないし、車の助手席に乗せたことすらない。


彼の愛車、赤のRX-7は主に似ず女嫌いだ。深い関係の女性を乗せると、てきめんエンジンがご機嫌斜めになる。元々、ひとりで走るための車だから構わないのだが……RX-7自体が“宗の恋人”気取りなのかもしれない。

だが、そんなルールを最近破りまくっている。


「どうするよ……俺」


ハンドルを抱き締め、宗は独り言をつぶやいた。

返答に困るRX-7であった。