平凡太~ヘイボンタ~の恋
*代理パパ*
会社では何も変わらなかった。


栞はボクと一華先輩の事は黙っているようだし、仕事は仕事として割り切っているようで、ボクに気持ちを押しつけたりもしない。


ただ、終勤後の帰りは3人一緒。


で、一華先輩を送ろうとするボクを栞が脅しまじりでねじふせるというのが日課になりつつあった。


今日は金曜日、明日から2日間栞に引きづりまわされない事を思うと、ホッとした。


「じゃあ、あたしはここで」


「一華先輩…」


こんなに切ないのに、こんなに手を伸ばしたいのに、それを栞が邪魔をする。


「一華先輩、さよぉならぁ」


黙って遠ざかっていく一華先輩の華奢な背中を見送る事しかできない歯がゆさ。


あの日、確かに一華先輩はボクの腕の中にいたのに。


『友詞』として肌を重ね合ったのに。


何もなかったような日常がただ虚しかった。
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