オレンジ色の間接照明とゆったりと流れるJAZZのリズムが店内を包み込む。閉店間際で、店にいる客はあたし一人だけだった。


「少し飲み過ぎですよ」

マスターはあたしが注文したカクテルではなく、透き通った水をカウンターに差し出した。

心地良いBARの雰囲気と仕事の疲れのせいで、つい飲み過ぎてしまった。顔が熱く、視界がぼやける。

週末を一人でこのBARで過ごすようになってから、半年近くになる。初めて来た時も、マスターはこんなふうに水を出してくれた。


あの日、あたしは三年間付き合っていた恋人に振られた。そして、気付いたらフラリとこの店に入っていた。

たくさん酒を飲み、たくさん涙を流し、たくさんの思い出を忘れようとした。そんな迷惑な客に、マスターは何も聞かずにカクテルを運んでくれた。そして、一人で歩けないくらい飲み過ぎたあたしの体を、おんぶしてタクシーまで運んでくれた。

その時の記憶はおぼろげで、しっかりと覚えているのはマスターの首筋から漂う甘い香りだけだった。


この作品のキーワード
密フェチ  BAR  香り 

感想ノートに書き込むためには会員登録及びログインが必要です。