いきなり王子様
不完全な王子様

  
  *   *   *


俺のこれまでの人生を振り返れば、それなりに、なんでもできていた。

勉強やスポーツはもちろん、小学校にあがる前から習っていたピアノも絵も周囲から感嘆の声をあげられるほどに上達した。

必死で練習したわけでもないし、寝る間を惜しんで勉強に励んでいたわけではないけれど、高校も大学も志望校へとすんなりと入学できた。

絵画展での入選や、ピアノコンクールでの優秀賞。

習うもの全てにそれなりの結果を出してきた俺だったけれど、結局仕事を始めた今でさえ一位になった事はない。

入選ではなく大賞、優秀賞ではなく最優秀賞を狙っていたわけではないにしても、一位と評価される結果には縁がない。

そして、学校のテストでは学年5位辺りをうろうろとしていた。

決して卑下するわけではないけれど、俺の人生には『てっぺん』という言葉が存在しないよな、とある時から認めていた。

それなりに器用にこなすけれど、ただそれだけで、体が震えるほどにやりきったと思える結果を出した事無く大人になって、はや数年。

その締めくくりとでも言えるのが、工場での勤務だと思う。

特に、夢も将来への展望も持たずに安穏と生きていて。

そして、自分の意思とは無関係に女からの視線にさらされるようにもなる。

努力も熱意も、無我夢中になる心地よさすら経験する事なく、何でもそつなくこなす自分を持て余していた俺が出会ったのは。

『竜也くんが大人になってもこの家から離れたくないって思えるような家にしたつもり』

そう言って笑った建築士さん。

俺が中学生の頃、当時老朽化が進んでいた実家を取り壊して新築する事となった。

そして、両親の知り合いだという建築士さんに住宅建築の全てをお願いした。

その言葉が、建築で生きていってもいいか、と漠然としながらも建築の道へすすむきっかけとなった。

その時の俺には、足場が組まれていく過程でさえ新鮮で、危ないからと簡単に近づけない場所に近づきたくてうずうずするという初めての感覚。

味わった事のない刺激を得て、建築の勉強に熱を入れてみようと、突然の決意。

人生なんて、こんなもんだ。

とはいっても、相変わらず『てっぺん』には縁はないけれど。


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