彼はとても綺麗で冷たい手をしていた。

彼は陶芸家だ。まだそれだけで生計を立てるのは難しいので、陶芸教室の講師で生活費を稼いでいた。そこで私たちは出会った。
初対面の人は、まず手を見てしまう。大きな手のひらと長い指に目が奪われ、土を弄りながら触れた手の冷たさに熱が奪われ、ときめきは恋に変わった。


私はいつも、そんな手をしている男と恋に落ちる。




会社員の私は街中で暮らして、週末だけ静かな彼の家で過ごしている。

工房に入ると、手びねりで作った花器を眺めている彼の姿があった。高台が付いているから完成品らしい。
ロクロでは作り出せない鋭角と曲線。彼の手が生み出す作品は、その手と同じく綺麗な中にどこか冷たさがある。

「できたんだ?」
「うん」

満足げに頷く彼に、私も自然と笑みを浮かべた。
彼の右手に、私は自分の左手を絡めるようにして繋ぐ。
ひとりでいた時間を埋めるように、手を繋ぐ。
氷のように冷たいその手に、背筋が粟立ちぞくりとした。

「汚れるって言ってるのに」

まだ土がついたままの手を握ってしまう私に、彼はいつもこう言って笑う。

「冷たくて気持ちいいんだもの」
「美樹さんの手は温かいね」
「子どもみたいでしょ。いいなあ。冷たい手」
「陶芸向きなんだ。温かいと土が乾燥しちゃうから」

彼の前に付き合っていた人もそんなことを言っていた。
パン職人の彼の手も、いつも氷のように冷たかった。温かい手はパン作りには向かないのだと言っていた。


仕事が手を変えるのかしら。
それとも手が仕事を選ぶのかしら。


私はそんなことを考えた。

「僕は、美樹さんの手が好きだよ。温かくて柔らかい手だなあって。すぐ好きになった」
「私はあなたの手が好き。冷たくて綺麗なこの手が好き」
「僕たち、手から恋人同士になったんだね」

真面目な顔でそんなこと言う彼に笑って、でも、手から恋が始まったのは本当だわねと私も頷いた。

「お風呂、沸いてるわよ」
「一緒に入ろうよ。洗って?」
「えー」
「僕も洗ってあげるから」

美樹さんの好きなこの手で、体中洗ってあげるから。
甘えて強請る声に、こいつめと鼻を捻り、手を繋いだまま工房を出た。

彼のこの手は、これから私を捏ねて撫でて楽しむつもりらしい。




ねえ。
綺麗で冷たいこの手でずっと。
私をあなたに繋いでおいてね。

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