「だからさ、課長はああ云ったけれど俺は違うと思うわけ」


彼の苛立ちの理由は私の知る処でもある。
何故なら私達は同じ部署で働いているから。


彼は苛立ちのまま私の座るソファに向かって上着を脱ぎ捨てると、ネクタイを片手で器用に緩め、ワイシャツのボタンに手をかける。
帰ってきたばかりの彼の部屋は、まだ暖房が効いていなくて肌寒い。
けれど怒りがおさまりきらない彼はそんなのお構いなしみたいだ。


そんな彼を膝に両手で頬杖をつきながら無言でじっと見つめる。
すると、ワイシャツのボタンを全て外した処で彼の手が止まった。


「……あのさ、」
「なに?」
「呆れてんの?」
「どうして?」
「さっきからずっと無言だし」


別に呆れているわけではない。
確かに今日の課長はどうかと思うし、それに付随した彼の怒りもごもっともだと思う。


ただ。


「ずるずるいつまでも怒って女々しい男だなと思ってるとか?」


ふい、と横を向いてそう呟く彼の手が、落ち着かない様子でワイシャツの裾を弄ぶ。


「意外」
「……なにが?」
「そういうの気にしないひとかと思ってた」
「そりゃ気にするよ。やっとつき合える事になった相手が俺の事をどう思っているか、そんなの気にするに決まってる」


そう、私達はつい最近つき合いはじめたばかりでお互い知らない事がまだたくさんある。
仕事の顔は知っていてもプライベートはまた別だと思うし。


「きみは余裕かもしれないけれど、こっちはいつだっていっぱいいっぱいなんだよ。情けない事に」


不貞腐れたようにそう云う彼がなんだか可愛くてつい笑みが零れてしまう。


「あのね、最近仕事が忙しくて今日やっとふたりきりになれたじゃない?」


そう云いながらソファから立ち上がり、目の前に立つ彼のワイシャツの襟元に手を伸ばす。
そして、露わになった彼の鎖骨のくぼみをそっと指でなぞり、ゆっくりと口づけた。


いつもはワイシャツで覆い隠されている綺麗なくぼみ。
それが露わになる瞬間を見るのが好きだ。
この綺麗なくぼみを知るのは私だけなのだと思うと、一層愛しさが込み上げてくる。

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