桜が求めた愛の行方

6.始まり

勇斗は出版社の創刊パーティに来ていた。

正式に結婚の日取りを発表してから、
初めて二人で参加する公の場だ。

隣で隙のない微笑みを張り付けている
さくらを見て、内心で笑っていた。
こういう場が昔から苦手だったはず。
結婚式を控え多忙を理由に断り続けたパーティだが、亡き父の友人からの招待で、
更にじい様の代理を命じられれば、
無下に断る訳にいかなかったのだろう。

それにしても……今日の彼女は一段と美しい。
シンプルな黒のドレスは背中が大胆に
開いていて、腰に回した手には
すべすべの肌が触れている。

その感触をもっと味わいたくなって
思わず拳を握った。

『主催者への挨拶は済ませたでしょ?
 あとどれ位いたら礼を失することにならず
 に帰れるかしら?』

『そんな刺々しくならないで、
 もっと楽しめばいい』

『もぅ、楽しめる訳ないじゃない』

『どうして?』

『あなたも直にわかるわよ、ほらきたわ』

『やあ!勇斗君!!
 ついに結婚するそうじゃないか!』

旅行雑誌の編集長で、先日ホテルのP R に協力してもらった長嶺が近づいてきた。

『はい、お陰さまで』

『そちらが?』

『ええ、そうです』

さくらが、完璧な笑顔で長嶺にお辞儀した。

『藤木さくらです』

『いやはや、何ともお美しい』

厳めしい顔が相好を崩した。
おいおい、いい年した男をたった一秒で
骨抜きかよ。

『そのお言葉が本当でしたら、
 彼の為に着飾った甲斐があります』
その笑顔のまま見上げられて、
危うく俺まで骨抜きにされるところだ。

『勇斗君が羨ましいな、どうぞ今日は
 楽しんでって下さい』

『はい、ありがとうございます』

長嶺さんは、仕事の話を二、三して
また別のゲストへ挨拶しに消えていった。

『俺の為に着飾ったって?』

『あら、本当のことよ?
 あなたに恥をかかせてはいけないもの』

『君が俺の為に着飾ったなら、
 それに相応しい贈り物をしなければ
 いけないな』

耳と首につけられたドレス同様シンプルな
宝飾品とやけに豪華な指輪を見て俺は
顔をしかめた。

バランスが悪いな。
あの指輪に合うネックレスとピアスを
買ってやろう。

そこではたと、気づいた。
これまで、女性に欲しいとねだられて
買うことはあったが、自ら買い与えたいと
思った事は一度もなかった。

『あなたからは何もいただけないわ』

『なぜだ?』

『だって、とりあえず、ですもの。
 無駄なお金を使う必要はないわ』

『とりあえず?』

『いやね、あなたが言ったのよ。
 とりあえず結婚しようって』

『いや、あれは………』
あれは何だと言うつもりだ?
俺は……
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