『若恋』若恋編
白い花




明け方には病院へ戻り、りおの眠る静かな寝顔を見ることができてほっとした。

シーツの上に流れる黒髪を指ですく。



「………りお」


その頬に触れたい。
けれど、触れるのが怖い。


「若は、りおさんのことを」

「………」


知らない、わからない。
そう言えるならよかったが、知ってしまった。

守るべき女だと。

一瞬ですべてが囚われたと。





「……榊、知ってるか」

「何をです?」

後ろに控えた榊が答えた。


「自分の命より大事なものが出来た時に人はどうなるか」

「……いえ、」

「おまえもいつかわかるんだろうな」



「……若は、……りおさんのことを」

言ってるんですね?

「………」



それには答えず、りおの髪を撫で続ける。



< 73 / 475 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop