香水
香水
大好きだったパパが、癌で亡くなった。
それから数日後───
「失恋しちゃったー」
笑うしかできないあたしを、親友が飲み会に誘ってくれた。
父を亡くし、大好きだった彼氏に振られて、精神的にダメージを受けていたあの頃。
目の前に現れたキミは、一筋の光に思えた。
「かんぱーい」
賑わう店内。
注文を聞きにくる店員。
すでに酔いつぶれた客。
男女数人で行われた飲み会。
正直、あまり乗り気ではなかった。
「趣味は?」
「特にないかな」
「休日は何して過ごす?」
「ぼーっとしてる」
与えられた質問に、愛想笑いを加えて淡々と答える。
気分転換を目的に参加したのに、周りのテンションについて行けない。
どうしてみんな、あんなに楽しそうに笑っていられるんだろう。
…来なきゃよかったかな。
「飲まないの?」
氷だけが入ったグラスを見つめていると、突然声をかけられた。
同時に、ふわりと優しい香りが鼻をつく。
この香り、パパと一緒だ。
「暗い顔してないで、ほら。
飲もう?」
無理矢理あたしに新しいお酒を渡そうとしてくる。
「パパと同じ香り……」
「え?」
懐かしさと寂しさと虚しさが、ぐちゃぐちゃに混ざって涙が頬を伝った。
「ごめん、そんなに飲みたくなかった?」
声が思うように出せなくて、首を一生懸命左右に振る。
目が合うと、キミは困った顔をして慌てていたよね。
それから数年後───
白いドレスを纏ったあたしに、キミは永遠を誓いました。
左手の薬指で、愛の証は今もキラキラと輝いて。