濡れて乱れて
「違うもんっ」


 大好きな彼氏に誤解なんてされたくない。


「本当に?」


 漆黒の前髪がふわりと揺れて、私のために屈んだ彼の瞳がその隙間から見え隠れする。


「――本当に」


 そろそろ、本当のことを言うべきなのかもしれない。


「――あのね、私」


 ほかに誰がいるというわけでもないのに、なんだか気恥ずかしくなって、長身の丈の耳を引っ張ってそこに唇を寄せる。ほんのり香る香水の香りが、私の血液を熱くたぎらせる。

 そう。私は丈のこと、全部、全部好きなんだよ?

 オトナっぽい雰囲気や、ちょっと不器用なところとか、ルックスも、声も、彼の吐息でさえも。





 でもね、でも。
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