舞の志望大学は見当がついたが、たぶん今の彼女の成績だとかなり厳しいだろう。その場合、ランクを落として地元私大の文学部を受験させるというのが、進路指導のいわばセオリーだった。

 どちらにしろ、舞は地元の大学を志望するようだ。それがわかってから、俺の心はかなり揺れている。

 数学をやるなら地元では無理だ、というのが俺の結論だった。

 そして一般論としては、歯科医になるなら舞が志望している地元の国立大学に進学するのがベストの選択と見なされていた。

 ――俺は……どうすれば?

 考えがまとまらないうちにチャイムが鳴った。

 頬杖をついたままもう一度ため息をつく。すると「おい、清水」と言いながら前の席に田中が腰掛けた。

「浮かない顔してどうした? 今日はお隣さん、休みなのに……」

 田中の発言の意図がよくわからず、首を捻る。

「高橋さんが休んで、俺が嬉しくならないといけない理由は?」

「だってよ、お前……」

 急に口の横に手を当てて声を潜めた。



「強請られてるんだろ?」



「はぁ?」

 突飛な発言に俺は思わず大声を上げる。

「いくらだ?」

「お前、何言ってんの?」

「いや、だから、お前さ、高橋に何か弱み握られてるんだろ? あ、そうか! この前高橋が居眠りして椅子から落ちたのを庇ってやったのも……」

「違う。田中、勘違いしてる」

 俺は田中の暴走を慌てて止めた。どこでどうなったらそういうことになるんだ?

「何が勘違いなんだよ」

 田中は自分の思い込みに絶対的な自信があるらしい。コイツがそう思い込むに至った経緯が知りたいが、とりあえず舞のあらぬ嫌疑を解くのが先だ。