出会いから付き合うまで。
笑顔
 初日から暫くの間、店には閑古鳥が鳴いていた。
 オープン初日から数日後、草加君は厨房で仕込みをしていた。あたしも手伝おうかな、どうせ暇だし、と思って厨房に行ってみた。ホール担当だけどお客さん来ないし、いいよね。
「あっ、手伝います」
 あたしが言うと、草加君は振り向いて、
「じゃあ、これに生地を入れてください」
 と言ってボウルを差し出した。この中に生地を入れろ、と言うことらしい。あたしは厨房内を見渡して量りを探した。厨房担当の人は目分量だけで量れるみたいだけど、あたしには無理。だから量りが無いと、と思って探しているのだ。厨房はホールほどではないけれど、十分にスペースを確保されているので程よく広い。壁際にはコンロ、業務用の大きな冷蔵庫などが並んでいて、中央に食器などの小物が置いてある。生地をこねる、などの作業は中央の作業台で行なっていた。厨房の中にはあたしと草加君の他にも、数名の厨房スタッフがいた。皆それぞれの作業に集中している。
「量り、ありますか?」
 あたしが訊くと、
「あぁー、無いですね。いいですよ、僕がやりますから」
 草加君が代わってくれた。多分、どこにあるか解らない量りを探すより早いからだろう。
 草加君が生地を入れたあと、あたしが千切りにしたキャベツを乗せた。量はどうかな、と草加君を見ると、これでいいと言ってくれた。そんなあたし達を料理長が見ていて、声を掛けてきた。
「更科さんっていくつ?」
「二十歳です」
「草加は?」
「十九です」
「草加の方が一つ下なんやな」
「平成生まれなんですよね? 若いですね」
 あたしが驚いて言うと、草加君が謙遜した。
「いやいや、一つしか変わらないですよ」
 料理長がしげしげとあたしの顔を見ながら言う。
「更科さん、童顔やもんな」
「ちょ、それ、酷くないですか?」
 厨房の中に笑い声が響いた。その後あたしはお客さんが来たので、ホールに戻っていった。それからだった、彼と話すようになったのは。
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