マイ・フェティッシュ
☆★☆

 わたしは彼が笑った時に出来る小さなえくぼが好きだ。

 でもえくぼフェチというわけじゃない。

 その証拠に、今までいろんな人のえくぼをみてきたけれど、ときめいたことはただの一度も、ない。

 わたしは彼の胸の奥にすとん、と落ちてくる低めのトーンの声が好きだ。

 しかし低めのトーンの声が好きというわけじゃない。

 わたしは彼の天然パーマのふわふわした癖っ毛が好きだ。

 けれども癖っ毛が好きというわけじゃない。

 ちなみにわたしは密かに彼のことをアスパラ系男子と呼んでいる。

 彼は年下だ。

 だからといって年下が好きというわけでもない。

 甘えたいタイプなんです、結構。

 ドット柄のシャツを着こなす彼は本当にかっこいいと思う。

……いや、さすがに、そうはいっても毎日その柄の服を着られるのは嫌よ?

 彼の指の爪は形がすごくよくて、好き。

 料理上手なところも好き。

 たまにお弁当作ってきてくれるし。

 少し色素の薄い、ブラウンの瞳も好き。

 パンっ、と空気を割るような笑い方も好き。

 Vネックからちらりと覗く鎖骨も好き。

 電車で吊革につかまってるときの二の腕も好き。

 考え事がまとまらないと知らず片目を閉じちゃう癖も好き。

 必ず車道側を歩いてくれるところとか。

 人が混雑してると黙って手を取ってくれるところとか。

 耳たぶのやわらかさとか。

 可愛い小物に共感してくれるところとか。

 映画で泣いちゃうところとか。

 運動が結構得意なわりに身体は固いところとか。

 雨の日に髪がはねるのを案外気にしちゃうところとか。

 猫を見かけると近寄って、でもすぐ逃げられて軽くヘコんじゃうところとか。



 好き。



 でも、それは、彼だから。

 つまるところわたしは――

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