しあわせおばけ

俺は大学を卒業してすぐ、この会社に就職した。

今年で勤続12年めの34歳。

従業員は社員も派遣も合わせて30人弱の小さな会社だから、男も女も、上司も部下も関係なく、みんなで力を合わせてやろうじゃないか、という社風が気に入っている。



ところが、最近の社内の雰囲気はちょっと違っていた。



「おはようございます」

全国の会社員がそうであるように、仕事の始まりは必ずこの挨拶だ。

俺より先に出勤している人の顔ぶれはだいたい決まっていて、そんな中、誰よりも早く出勤する、この春入社した佐伯さんが入れてくれるコーヒーが、俺は好きだった。

「…あの、三国さん、今日も無理しないでくださいね」

今日も佐伯さんは、俺に気遣いの言葉を添えて、コーヒーカップをデスクに置いた。

うれしいけど、正直その気遣いが重い。



< 10 / 221 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop