眠り姫の唇


…残業手当てぐらい出してくれたらいいのに。


瑠香(るか)はブツブツいいながら、残った書類を抱え7階のオフィスに戻った。


会議は伸びに伸び…、時計をうんざりしながらチラ見すれば、午後10時を軽く回っていて。

しかも会議室に女は瑠香一人。

必然的に片付けを押し付けられ、(新人の男の子もちゃっかり出て行き)洗い物がすんで戻ってきたら、会議室はもぬけの殻。


瑠香はため息と一緒に抱えきれない程の書類を持って別階のオフィスに帰って来たところだった。


…少し丁寧に片付け過ぎた。

廊下が既に薄暗い。

自分が最後かぁ、と瑠香はヨレヨレと歩く。



最後って意外とめんどくさいのだ。

一々一階の管理人さんに“自分が7階の最後です、セキュリティーロックお願いします”と伝えなければならない。




「(はぁ…)」



やっとオフィス前についたのに、大量の書類のせいで扉が上手く開けれない。



「(はぁぁ…)」



何回目かのため息を吐く。


瑠香は扉にくるりと反対を向き、トンッと体重をかけた。



背中から音も立てずゆっくり開けてしまった事を、



瑠香は3分後後悔する。




「………っ…」






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