時を刻む
兵どもが夢のあと



夜明けの空は

珊瑚か いや
生まれたての水の色か。

そんな事を考えながら
とりとめもなく
移りゆくさまを眺めていたら

小鳥が
きょうも私に
朝の訪れを、告げた。





この世に生を受けて100年余。

"日比谷公園"

そう呼ばれる緑の森は
明治の昔から
変わることなく人々を包み
その腕(カイナ)に憩わせている。

わたしは
このただ中にあって
絶えずまどろんでいる。


その夢の狭間で

春のほほえみに
夏の笑い声に
秋の溜息に
冬の叫びに

この絶え間なく続く
四季というものの
なめらかな流れに


ちく、たく
ちく、たく


不粋に
折り目正しく
針を刺すのである。



「とき」を司る

わたしは
「時計」と呼ばれている。






目を閉じれば
まるで昨日のことのように
思い出される。


鮮やかに鳴り響く
軍艦マーチ

建物を焼き尽くす
怒りの業火

地響き
空襲
焼け野原

復興
闘争
亡者の群れ


わたしが
為す術なくただ
時の布に縫い付けてきたのは

人間たちの、命の軌跡。





終わりの時が近付いて
改めて思う。


わたしは

儚くも逞しい
この"人"というものが

羨ましかったのだ、と。


傷ついて倒れ
天災に泣き
それでもなお立ち上がり
次の世代へ命を繋ぐ

しなやかな、その営みが。


わたしは
彼らに関わることなく

ただ運命(サダメ)に従い
刻み続けるのみであった。




何も残さずひとり


ちく、たく


ひたすら


ちく、たく


最期の、その時まで


ちく、たく、た…









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