いつか、眠りにつく日

2、

 外に出るとうだるような暑さが気持ちよかった。

「これって冬だったら、私みたいに死んだ人にとってはさらに寒いの?」

「いや。普通の人間って怒ったり緊張したりすると暑くなるだろ。お前らはその逆、不安定になると寒く感じるんだ。だから平常心でいれば大丈夫」

 男はゆっくりと前を歩いてゆく。

 靴越しに感じるアスファルトの感触も、髪を揺らす風も、まぶしい太陽も、全部がリアルなのに、自分自身が存在していないなんて。

 男の背中を見る。

___黒いスーツで暑くないのだろうか?

「クロ」

「は?」
男がいぶかしげに振り返る。

「名前ないのって不便でしょ。クロ、でどう?」


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