ビロードの口づけ
14.紅い華
 ジンの温もりに包まれてクルミはそっと目を閉じた。
 思い返せば、泣いていないのにこんな風に優しく抱きしめられたのは初めてだ。
 そう思うと次第にドキドキしてきた。

 このまま時を止めて優しいジンを独り占めしたい。
 クルミが密かな幸せに浸っていると、耳元で意地悪な声が囁いた。


「あんた、何か期待しているのか?」
「え?」


 胸の内を見透かされたような気がして、クルミは焦って顔を上げる。
 至近距離で目が合い、益々焦った。


「さっきから鼓動が早くなっている」


 ドキドキしていた事がばれていた。
 恥ずかしさで一気に顔が熱くなる。
 ジンが凶悪な笑みを浮かべた。


「そういう期待には応えてやろう」


 どういう期待? と問う間もなく、クルミの身体は抱き上げられベッドの真ん中に横たえられていた。
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