ビロードの口づけ
16.銀色の獣
 翌日、夜中に現れた獣の事で屋敷内は騒然となった。
 朝から父と兄が帰ってきて、代わる代わるにクルミの身を案じた。
 ジンが撃退してくれたことを告げると、今度は二人ともジンを手厚く労う。
 以前火花を散らしていた兄にまで、手放しで感謝されジンの方が面くらっていた。

 警備会社に獣が紛れ込んでいたため、警備員は全員改めて身元の調査が行われたが、警備会社が変更になることはなかった。
 人の姿で潜り込んでいた獣は、夜の内に行方をくらまし、会社からは連絡がつかなくなっている。
 他の会社に潜り込む可能性もあるので、身元調査の行われた警備員の方が安心できた。

 筋肉バカでもそれくらいの知恵はあったらしい、とジンは言う。
 それを聞いて、クルミは違和感を覚えていた。

 ゆうべの様子を思い出しても、庭木をへし折るほどの怪力を持った獣だと想像できる。
 その獣をジンは”あいつ”と呼んだ。
 つまり五年前の獣だ。

 五年前にクルミの寝室に現れた、しなやかできれいな黒い獣とは、あまりにもイメージが一致しない。
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