ビロードの口づけ
「雇われ者のくせに偉そうだと言いたいのか?」

「そうじゃなくて、私はあなたの友達でも部下でもありません。それなりの話し方があるでしょう?」

「勘違いするな。オレを雇っているのはあんたじゃない。オレには使用人部屋ではなく、ちゃんとした客室が与えられている。客人として”それなりの”扱いをしてもらいたいのはこっちの方だ。ま、お嬢様ってのは、どいつも勘違いな奴が多いけどな。高慢ちきで高飛車でない分、あんたはマシな方だが」


 そう言ってジンは鼻で笑った。

 確かにジンを雇っているのは父だ。
 何も言い返せずクルミは唇をかむ。


「心配するな。仕事はちゃんと全うする」


 そうは言われても、この人とは気が合いそうにない。
 そんな人に四六時中側にいられては、気が休まらないように思える。

 そんなクルミの胸中をよそに、ジンは恭しくクルミの右手を取った。


「全力でお守りいたします。お嬢様」


 そしてニヤリと笑い、今さらのように指先に口づけた。
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