ビロードの口づけ
 本意ではないが、クルミはジンの弁護に回った。


「彼はお父様の命令に忠実すぎるの」
「まぁ、そうかもしれないな」


 クルミを横目に見ながら、兄は渋々ながら同意する。
 そしてポツリと漏らした。


「約束の日が近いから、父さんも過敏になっているんだろう」
「約束の日?」


 クルミが首を傾げると、兄は焦ったように取り繕った。


「あ、あぁ。契約の日だよ。仕事の話だ」


 何か大きな取引でも進めているのだろうか。
 それにしては兄の様子が気にかかる。

 仕事の話ならクルミにしてもしょうがないし、デリケートな案件なら口外できないのも分かる。
 それでもなんとなく、胸の奥がもやもやした。

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