バドミントン部の練習を終えた希は教室のドアを開けた。誰もいない教室。男臭さと女の香水が入り交じった匂いが教室内を席巻していた。
 希は鞄からピアスを取出した。それを右耳につける。左耳にもつけたいのだが、つけられない理由があった。それは左耳だけモデルとして雑誌に掲載されてるからだ。〝耳のモデルなんて聞いたことないよ〟という高校生活にありがちな、他者への嫉妬、噂の連鎖、淡い賞賛、色々な感情が渦巻きそうなのを考慮し、希は誰にもいわないでいる。ようするに自己満足の世界だ。それでも誰かしらに認められるというのは彼女の自尊心を少なからず、くすぐった。
 耳のモデルは主に、通販サイトや雑誌、あらゆ媒体に掲載される。比較的、希の耳は重宝され、アルバイトとしては他の同級生たちよりは金額的にも少ない時間で、それなりの金額を頂いている。
 それでか、異性を目にするときも顔というよりは耳に視線がいってしまう。それはしかたがないことなのかもしれない。耳のモデルをやってるし、それでお金を頂いてる。そういう風に物事を観察しないわけにはいかない。そう希は考える。
 希がいいな、と思う耳の人が学校内にいた。それが音楽教師の直人だ。長身で二十代後半。程よく日焼けした顔に似つかしくない小振りな耳。それが希を刺激した。
 触れたい。
 その思いが加速する。その希の思いを知ってか知らずか教室の扉が開いた。そこには直人がいた。
「あ!先生、どうしたんですか?」
 希の心臓は早鐘を打った。触れたい衝動が抑えられない。
「希ちゃん、今一人?」
 直人が教室内を見回す。
「今、部活終わったんですよ。もしかしたら誰か来るかもしれないですけど」
 希がそう言い終わった後、直人が距離を詰めた。爽やかな匂いが彼女の鼻孔をかすめた。それは石鹸の香りだった。直人から発する匂い。男の匂い。
 希の眼前に、直人の顔があった。そして唇が触れ合った。
「いけないとわかってるんだけど、抑えられなくて」
「実は私も」希はそう言い、直人の耳に触れた。小さく、手のひらに収まるサイズだった。触れる度に興奮の波が押し寄せ来る。
「僕を見ていたのは、この為?」
 希はうなずいた。
 夕焼けの陽が窓から射し込んだ教室で二人は熱いキスをした。
 耳に触れながら。
 

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