「生体実験って、よくやるの?」
「ん?」


 謁見の間に向かい、ロイドの後に続いて廊下を進みながら結衣は尋ねた。

 天井が高く、広くて長い廊下には、二人の他に誰も歩いていない。


「さっき、生体実験のサンプルにするって言ってたじゃない」
「あぁ。オレはほとんどしない。薬学、大脳生理学、生体力学、遺伝子工学、とまぁ一通りかじってはいるが、オレの専門は機械工学だ。生き物の身体を使う必要はほとんどない。どうせ使うなら自分の身体を使う。他人の身体は扱いづらい上に、結果や反応がわかりにくいからな」


 それを聞いて結衣はホッとひと息ついた。
と同時に、はったりで脅されていたのだと知り、ムッとしてロイドを睨んだ。

 ロイドは結衣の様子をおもしろそうにクスクス笑う。


「おまえ生体実験を勘違いしてるだろう。泣き叫ぶ実験体をベッドに縛り付けて、生きたまま切り刻んだりするのを想像していないか? それは実験じゃなくて解剖だ。生体実験ってのは、生き物の身体を使って行う実験の事だ。
基本的に動物実験の事を言う。結果がどう転ぶかわからない実験に人の身体を使う事はまずない。そういう実験をオレは許可していない」
 そういえば、ロイドはなんとかの局長だと名乗っていた。
 実はエライ人だったんだ、と今頃気がついた。


「どうして、他人の身体だとわかりにくいの?」

「人体実験をする段階になったら、人体に悪影響がない事はほとんど立証されている。だから被験者が目に見えて体調を崩す事はないんだ。しかし、目に見えない小さい影響はあるかもしれない。こっちの知りたいのはそこなんだが、勝手に関係ないと判断して教えてくれなかったり、説明が下手で上手く伝わらなかったり、間に人を介すと、とにかくわかりにくい。たとえば、同じ部位に同じダメージを受けても人によって感じ方は違うからな。できればありのままを伝えてもらいたいんだが」

「じゃあ、そういう機械を作れば? 相手の感覚がそのままわかるっていう」


 結衣が何気なく言った適当な言葉にロイドが食いついた。

「そうか。五感伝達装置か。おもしろそうだな」

 そう言った後、ロイドは歩きながら腕を組んで考え込んだ。
 何やら意識はどこかへトリップしてしまっているようだ。
 まじめな顔をしながら、時々口元に笑みを浮かべるのが薄気味悪い。