クランベールに行ってきます
結衣は目を細くして、横目で見上げながらため息をついた。
「どうせ、またエロい事考えてるんでしょ」
「あ?」
突然こちらの世界に帰ってきたロイドが立ち止まり、結衣の言葉にニヤリと笑った。
「そういう使い道もあるか。益々おもしろい」
結衣はさらに大きなため息をついて肩を落とした。
「そんなものより王子様を見つける事が先決でしょ。さっさとどこが壊れてんのか見つけてよ」
「こら、言葉」
そう言ってロイドは結衣の額をペチッと叩いた。
再び廊下を歩き始めたロイドが、少しして立ち止まった。
結衣も立ち止まり、ロイドの見据える前方に視線を移した。
廊下の突き当たりにある謁見の間の扉が開き、身なりのいい中年紳士が出てくるところだった。
ロイドは前方を見つめたまま小声でつぶやいた。
「いきなり面倒な方に鉢合わせしたな」
「誰?」
結衣も小声で問いかけた。
ロイドは前を向いたまま答える。
「殿下の叔父上だ。おまえは一言も口をきくな。目があったら愛想笑いして会釈だけしてろ」
中年紳士は扉を背にして、まっすぐこちらに向かってきた。
ロイドが廊下の端によけ、会釈して道を譲り、結衣もそれにならう。
栗皮色の髪を肩の長さで上品に刈り込み、口ひげを蓄えた中年紳士は、ロイドの前で立ち止まり声をかけてきた。
「久しいな、ヒューパック」
「お久しぶりです。ラフィット殿下」
ロイドは少し微笑んで、恭しく頭を下げた。
「相変わらず、調理機械とかをちまちま作っているのか? 私の元に来れば、国に貢献できる研究開発を思う存分させてやるぞ」
「もったいないお言葉痛み入ります。ですが、庶民の私にはちまちました機械の方が性に合っております。国家に貢献する研究開発などおこがましゅうございます」
ロイドがそう言って再び頭を下げると、ラフィット殿下は口の端を少し持ち上げて鼻を鳴らした。
「相変わらず食えない男だ」
今までの横柄な態度からは想像もできないロイドの豹変ぶりに、結衣が呆気にとられているとラフィット殿下はこちらに視線を移した。
真正面から視線がぶつかり、結衣はロイドに言われた通り愛想笑いを湛えて会釈した。