クランベールに行ってきます

11.出発の朝



 一足先に王に挨拶を済ませ、ロイドの研究室に行くと、すでに皆が集まっていた。
 ロイドは人捜しマシンの設定中で、ローザンはメインコンピュータの時計を合わせている。王子とジレットは休憩コーナーの椅子に座って談笑し、ラクロット氏がその側に控えていた。
 人捜しマシンのガラスの筒に朝日が眩しく反射し、結衣は思わず目を細める。
 部屋に入ってきた結衣に気付いて、王子が立ち上がって手を振った。結衣が側に行くと、ジレットも席を立った。

「おかえり。父上にまた、結婚の事言われなかった?」

 おもしろそうに尋ねる王子に、結衣はうんざりしたように、ため息をついた。

「言われたわよ。次に来た時は具体的に式の日取りを決めようって。なんか急がせるのよ。なんでなの?」

 どうやらロイドが結衣を迎えに行く事は、すでに周知の事実らしい。
 王子はクスクス笑いながら教えてくれた。

「ロイドの部屋に三泊したからだよ。月足らずの子供が生まれるかもしれないから、お腹が目立つ前に式を挙げた方がいいって言ってたよ」
 結衣は目を見開いて、絶句した。どんどん顔が熱くなってくる。
「絶対、あり得ないから!」

 結衣が力一杯否定すると、王子は意味ありげな目で結衣を見つめる。

「ふーん。そう?」
「そうよ!」

 いくら勘繰られても、あり得ないものはあり得ない。キスでは子供が出来ない事くらい、結衣も知っている。
 結衣は気を取り直して、ジレットに声をかけた。

「ジレット。こんなエロ男たちは抜きにして、また女同士でおしゃべりしましょう」
「はい。またお会いできる日を楽しみにしていますわ」

 ジレットは可憐な笑顔を見せた。結衣は続いてラクロット氏に右手を差し出す。

「ラクロットさん。色々お世話になりました」

 ラクロット氏は軽く頭を下げて、結衣の手を握り返した。

「いえ、こちらこそ無理なお願いを聞いていただいてありがとうございました」


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