クランベールに行ってきます
何日もエアコンをつけっぱなしにしたら、いったいどれだけ電気代がかかるんだろうと途方に暮れていると、部屋の中でロイドの声がした。
「鍵が開いてたぞ。物騒だな」
リビング前のテラスに抜けるガラス戸が開き、側にロイドが立っていた。
結衣は身体を起こし、ロイドを睨んだ。
「だからって勝手に入ってこないでよ。私が裸だったらどうするの?」
「おまえの裸……?」
ロイドは眉をひそめてそう言ったきり黙り込んだ。
その表情と沈黙が、何を言いたいのかかえって饒舌に物語り、結衣は立ち上がるとロイドに詰め寄った。
「なんで黙るのよ! どうせ胸小さいし、背高いし、男の王子様と同じ体型だし、小骨は刺さるし……!」
「わかった、わかった。おまえの裸を想像すると貧血になるほど鼻血吹きそうだ」
「バカにして……!」
投げやりに言うロイドにムカついて、叩こうと振り上げた右の手首を掴まれた。
多分、左手を挙げても同じ事になるだろう。
叩く事は諦めて追い出す事にする。
「とにかく出てって。これからお風呂に入って寝るんだから。あなたが見たくもない裸になるわよ」
「あぁ。オレは出て行こう。かわりにおまえが出て来い。用がある」
そう言ってロイドは掴んだ結衣の手を引いて、テラスに連れ出した。
外に出ると壁にある照明が自動で点灯し、テラスを淡く照らし出す。
ロイドは中央くらいまで来ると結衣の手を離した。
広いテラスは隣の部屋の前まで続いている。
ロイドはそちらから来たのだろう。
——え? ってことは……。
「あなた隣に住んでるの?」
「あぁ。オレは殿下の”お友達”だからな。いつでも行き来できるようにとの殿下のご配慮だ」
ロイドに言われるまでもなく、施錠の重要性をひしひしと感じた。
気を取り直して尋ねる。
「何の用?」
「喉のマイクロマシンを機能停止させてやろうと思って。朝起動すれば今頃は停止してるはずなんだが、今日は午後からだったからな。寝てる間に声を変える必要はないし、強制終了させてやろう。少し上を向け」
結衣はロイドの方を向くと首を伸ばして上向いた。