クランベールに行ってきます
結衣はラクロット氏から王室を取り巻くお家事情を大まかに聞かされていた。
今は王が健在なので表立って騒がれてはいないが、次期国王の座を巡って王族や貴族たちが睨み合っているらしい。
大きく分けると、第一王位継承権を持つ王子を推す一派と第二王位継承権を持つラフィット殿下を推す一派の二つだ。
継承権の順位を重視するなら王子が王位に就くのが順当だが、王子が頼りない上に本人にその気があるように見えないので、たとえ王に指名されても辞退するのではないかとラフィット殿下支持者は甘い期待と共に野心を燃やしている。
ラフィット殿下支持者の中には極端な考えを持った者もいるという事で、保身のために王子は気のないフリを演じているらしい。
「まぁ、可能性として、ないとは言えないが、今のところ検索の網にかかっていない」
「私も調べてみようかな」
結衣が腕を組んで星空を見上げながら軽くつぶやくと、ロイドが額を叩いた。
「余計な事をするな。おまえは殿下の身代わりに徹していろ。だいたい誘拐と決まったわけじゃない」
結衣は額を押さえてロイドの方を向く。
「誘拐じゃないなら何?」
「ご自身でどこかにお隠れになったか、何らかの理由で帰れなくなっているかだ」
「それって私みたいにどこか異世界に飛ばされてるって事?」
「それは一番あって欲しくないケースだな。そうじゃなくても、怪我をして動けないとか。どっちにしろあまりよくない。陛下も気丈に振る舞っておいでだか、大層ご心配なさってるはずだ」
「でしょうね。あの溺愛ぶりじゃ。あの機械が壊れた原因はわかったの?」
「それも調査中だ」
「なんにも進展してないじゃない……」
結衣は大きくため息をついて、身体を反転させると手すりに縋って項垂れた。
少しの間二人とも黙っていたが、突然ロイドが思い出し笑いを始めた。
「何?」
結衣が訝しげにロイドを見つめると、彼は笑いをこらえながら結衣に言う。
「おまえ、よっぽど背が高い事を気にしているんだな」
結衣はふてくされたように顔を背けた。
「だって昔から、からかわれてうんざりなんだもん」
「オレも言われてうんざりしている事はある」
「え? そうなの?」
自信満々のロイドにコンプレックスがあるのが意外で、結衣は思わず目を見張った。