クランベールに行ってきます

 昼食後、王子の姿が見えなくなった。
 王子の世話係、ラクロット氏は極秘裏に王宮内を隈無く捜索したが、どこにも見当たらない。
 そのため、王に報告し、王の勅命を受けたロイドが自作マシンで王子の捜索を行う事になった。

「それが、この装置だ。この装置は指定された範囲から指定された検索パターンにより、人物に限定してパターンマッチングを行い、一致したものを一致精度の高い順に画面表示する。オプションでここに転送する事も可能だ」

「難しい事はよくわからないけど、ようするに人捜しマシンなのね。それで、私が王子様と似てたからここに転送されたと」

「そういう事だ」


 一応大体の事情はつかめた。
 人を転送するなど、ここはかなり高い技術力を持った国のようだ。
 だが、結衣にはその肝心なところがわかっていなかった。


「で、クランベール王国ってどこの国?」


 ロイドは少しの間、黙って結衣を見つめた後、呆れたように言った。


「世界一の大国を知らないとは、おまえどこの辺境からやって来たんだ」


 日本は確かに国土面積も小さく、溢れんばかりの借金もかかえているが、一応先進国だ。
 普段愛国心などとは無縁の結衣も辺境呼ばわりされては、さすがにムッとする。


「日本よ。それに世界一の大国ってアメリカじゃないの?」


 ロイドは不思議そうに首を傾げた。

「ニッポンにアメリカ? どっちも聞いた事ないな」
「私だってクランベールなんて聞いた事ないわよ。どこにあるの? 地図見せて」
「やれやれ」


 わざとらしく大きなため息をついてロイドは立ち上がった。
 それを見上げて結衣は思わず目を見張る。


(この人、大きい……!)


 背の高い結衣が大きいと思える男はあまりいないので、たまに見かけると驚いてしまうのだ。

 ロイドはガラスの筒を出てすぐ側にある机の引き出しを探ると、地図を持って引き返してきた。

 再び結衣の前に片ひざを付いてしゃがむと、広げた地図を結衣の目の前に突きつけた。


「真ん中の一番大きい大陸がまるごとクランベールだ。で? ニッポンはどこだ?」


 見た事もない文字と見た事もない形状の大陸が並ぶ地図を凝視したまま、結衣はロイドに問いかけた。


「これ、世界地図?」
「あぁ。世界地図も見た事ないのか?」


 呆れたように嘆息するロイドに、結衣は叫ぶように反論する。


「だって! 私の知ってる世界地図と違うんだもの!」
「はぁ?」


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