クランベールに行ってきます

6.始まりの朝




「そういう寝方をするのはニッポンの習慣なのか?」

 突然部屋の中で聞こえた男の声に、結衣は悲鳴と共に飛び起きると叫んだ。

「誰?!」
「ねぼけるな。それとも一夜にしてオレの事を忘れたのか?」

 目の前で腰を屈め、ベッドに片手を付いたロイドが、結衣を覗き込みながら額を叩いた。
 結衣は一気に目を覚ました。

 ここは異世界クランベール王国。目の前にいるエロ学者に手違いで呼ばれ、王子の身代わりを押しつけられ、強引にファーストキスを奪われ、ショックのあまり泣き寝入りしたのだ。
 ぼんやりと昨日の出来事を反芻していると、

「思い出させてやろうか?」

そう言ってロイドは、片手でメガネを外しながら顔を近づけてきた。

「覚えてるわよ! ロイド=ヒューパック!」

 結衣が叫んでロイドを突き放すと、ベッドの上で小鳥がピッと鳴いた。
 ロイドはメガネをかけ直し小鳥を見た。そして結衣に向き直り、目を細くして問いかけた。

「おい。あいつにオレの名前をつけたのか?」
「え?」

 言われて、記憶をたどる。そういえば何となくロイドの名前を呼んだ時、小鳥の背中を触ったような……。
 試しに小鳥を呼んでみた。

「……ロイド、おいで」

 小鳥はピッと一声鳴くと羽ばたいて、差し出した結衣の手の平に着地した。
 間違いなさそうだ。一回だけと言っていたから訂正はきかない。苦笑してロイドを見上げると、ムッとした表情で見下ろされていた。

「どういうつもりだ」

”なんとなく”じゃ答えにならないだろう。結衣は苦し紛れに出任せを言う。

「この子私の命令を聞くんでしょ? あなたに命令してみたかったのよ」

 ロイドは冷ややかな笑みを浮かべる。

「ほおぉ、どんな命令をするつもりだ」

 そこまでは考えてなかったが、この機会に仕返しをしてやろう。結衣は不敵に笑うと、小鳥のロイドに命令した。

「ロイド! このエロ学者をやっつけて!」

 結衣がロイドを指差すと、小鳥はピッと返事をした。しかし、返事をしただけで動かない。

「あれ?」


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