クランベールに行ってきます


「レフォール殿下、喉のお加減はいかがですか?」

 結衣は少し笑ってロイドを見上げた。

「あぁ、もう大丈夫だ」

 ラクロット氏にしごかれたので、もう風邪をひいている事にしなくてもいい。

「では後ほど、朝食後にでも私の研究室にお越し下さい。お渡ししたいものがございます」
「わかった」

 結衣が承知すると、ロイドは部屋を出て行こうとした。それを結衣は引き止めた。

「あ、ロイド、ボクの朝食を三十分遅らせてくれるようにラクロットに伝えて。昨日、風呂に入ってないんだ」
「かしこまりました」

 ロイドは振り返り、恭しく頭を下げた後、身体を起こしてフッと笑った。

「なかなか、やるじゃないか」
「まぁね。腹括ったの。ちゃんとやるから、そっちもさっさと王子様を見つけてよ」
「御意」

 ロイドはそう言うと、軽く手を挙げ部屋を出て行った。全然”御意”な態度ではない。
 ロイドを見送り、ひと息つくと、ふとゆうべの事が頭をよぎる。
 結衣は両手で両の頬をパチンと叩いた。今は考えないようにしよう。
 肩に留まった小鳥をソファの背もたれに移動させた。

「ロイド、そこで待ってて」

 小鳥がピッと返事をした。結衣は目を細めて見つめると、急いで浴室へ向かう。
 結衣の王子様生活が始まった。


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