クランベールに行ってきます
声をかけて研究室の扉を開くと、ロイドが人捜しマシンの隣にいるのが見て取れた。コンピュータ画面の前の机に向かって座り書類を眺めている。
結衣が側まで歩み寄ると、初めて気配を感じたのか慌てて振り返った。どうも夢中になると周りが見えなくなるらしい。
結衣の姿を認めたロイドは早速毒を吐く。
「やっと来たか。待ちくたびれて、じじぃになるかと思ったぞ」
「元々じじぃなんじゃないの?」
「黙れ」
小憎たらしいので言い返すと、すかさず額を叩かれた。
考えてみれば、ロイドの年齢っていくつなんだろう。外国人の年は見た目ではわかりにくい。なんとかの局長という社会的地位から考えると、自分よりは年上だと思うが、ちよっと気になったので尋ねてみた。
「ロイドって何歳なの?」
「三十前後だ」
結衣は思わず眉を寄せて、半眼になる。
「”前後”って何?」
「正確な年がわからないんだ。オレは拾われっ子だから」
「え?」
軽い気持ちで、とんでもない事を訊いてしまったらしい。結衣が深刻な表情をしていたのか、ロイドがフッと笑った。
「おまえが気にする事はない。もう二十七年も前の話だ」
二十七年前、まだ幼かったロイドは、ラフルールの南東にある古代遺跡に置き去りにされていたらしい。本人に記憶はないが、当時遺跡の調査に来ていた考古学者がロイドを見つけて連れ帰ったという。
親を捜したが結局見つからず、そのままその考古学者が親代わりとなった。
言葉も話すし、自分で歩く。背格好からして三歳ぐらいだろうという事で、便宜上連れ帰った日を誕生日とし、三歳という事になったという。
「考古学者の子になったんなら、なんで考古学者にならなかったの?」
「考古学そのものにはあまり興味がない。だが、遺跡にある謎の機械装置は、ものすごく興味深い。何度か調査に同行したが、悔しい事にほとんどわからない」
本当に悔しそうに歯噛みするロイドを見て、結衣はクスリと笑った。すかさずロイドが気付いて睨む。
「何がおかしい」
「もしかして、あなたはその機械から生まれたのかもよ。だから機械が大好きなのよ」
結衣がからかうと、再び額を叩かれた。
「ふざけるな」